アルコール依存症の看護計画|急性期の看護問題・目標・OP・TP・EPを解説
みなさん、こんにちは。 看護研究科の大日方さくら(@lemonkango)です。
今回は、アルコール依存症について解説しています。
アルコール依存症の看護計画を知りたい方向けに急性期を中心に看護問題、目標、観察項目、援助計画をまとめました。
先に看護計画を見たい方は目次から「看護計画」へ進んでください。
そのあとで、病態、症状、治療を読む流れでも理解できます!
看護計画の一例を記載していますので、最後まで御覧ください!
アルコール依存症患者さんの看護計画【急性期】
看護問題
#身体的外傷のリスク状態:
離脱症状 睡眠パターンの混乱:
離脱症状の振戦・せん妄、幻覚の出現による恐怖、落ち着きの無さ
看護目標
●離脱症状から回復する
●身体外傷がない
●適切な量の睡眠が得られる
●恐怖感を表出し、症状が穏やかになる。
観察項目(O-P)
1)患者の言動・訴え
①不眠
②焦燥感
③一過性幻覚
2)自律神経症状 発汗、発熱、悪寒・戦慄・手指振戦・頻脈、血圧上昇、呼吸促迫
3)振戦・せん妄の有無
4)知覚障害の有無と程度
5)薬物療法に対する反応・副作用
6)検査データ:尿検査、鮮血便検査、X線検査、頭部CT、血液検査(特にCK)
援助計画(T-P)
1)離脱早期症状を発見したら速やかに医師に報告する。
2)指示された薬物の確実な投与
3)環境整備
4)そばにいて安心できるよう話しかけ、訴えを受容・傾聴する。
5)部屋の電気はつけたままにする(せん妄によりおびえているので気を落ち着かせる)
6)睡眠の援助
教育計画(E−P)
1)離脱症状として不眠、発汗、振戦、不安、幻覚、けいれん等が出現し得ることを説明し、増悪時は速やかに申告するよう説明する
2)自己判断で治療や服薬を中断しないこと、点滴ルートを抜去しないこと、安全確保のため単独行動を避けることを説明する。
3)点滴や薬剤投与は脱水補正、栄養障害改善、離脱症状重症化予防の目的で行うことを説明する。
4)依存症は治療と支援で回復可能な疾患であり、本人だけで抱え込まず家族も支援につながることが重要であると説明する。
5)必要時は自助グループ、精神保健福祉センター、相談機関等の利用を勧める。
急性期に押さえたい点滴管理と薬剤投与の注意点
アルコール依存症の急性期では、離脱症状の重症化予防と全身状態の安定化を目的として、補液、電解質補正、ビタミン補充などの点滴管理が行われることがある。
特に発汗、振戦、嘔気、摂食不良を伴う患者では、脱水や栄養障害を合併しやすく、長期飲酒患者ではチアミン欠乏にも注意が必要である。
高リスク例やウェルニッケ脳症が疑われる場合は、非経口でのチアミン投与が重視される。低血糖や低栄養が疑われる場合のブドウ糖投与は遅らせず、チアミンは投与前後または同時でよいとされている。ASAM は低マグネシウム、低リン、低カリウムなどもよくみられる異常として挙げている。
急性期に使用される薬剤の例としては、まずベンゾジアゼピン系がある。
代表例としてジアゼパム、ロラゼパム、クロルジアゼポキシドなどがあり、離脱症状の軽減と、けいれんやせん妄への進展予防を目的に用いられる。
看護では、意識レベル、呼吸状態、過鎮静、ふらつき、転倒リスクを継続して観察する。
興奮や精神症状が強い場面では抗精神病薬が補助的に使われることもあるが、離脱治療の第一選択を置き換えるものではない。
NICE は振戦せん妄でロラゼパムを第一選択とし、症状持続時や経口拒否時に非経口ロラゼパムやハロペリドールを選択肢として示している。
点滴管理の留意事項としては、
急性期の焦燥、不安、見当識障害、幻覚、せん妄により、点滴ルートの自己抜去、離棟、転倒、治療拒否が起こりやすい点に注意する。
ルート刺入部の観察だけでなく、点滴を気にするしぐさ、落ち着きのなさ、発言内容の変化、ベッド上でのそわそわした動きを早めに捉える必要がある。
自己抜去リスクが高い場合は、ルート固定の再確認、刺激を減らした環境調整、こまめな訪室、苦痛確認を行い、必要時は速やかに医師へ報告する。離脱症状は進行するとけいれん、幻覚、せん妄、自律神経不安定へ至ることがあるため、症状の小さな変化も見逃さないことが重要である。
アルコール依存症の概念
アルコール依存症とは、生活行動の基準がアルコールとなり、アルコールを調節して飲む事ができなくなった状態(コントロール障害)であり、アルコールが切れてくると、離脱症状を示します。
身体的・社会的および精神医学的な症状が多様な組み合わせで出現する症候群です。
イライラしたり、支離滅裂な言動、家庭内暴力、仕事にいかなくなる、アルコールでの対人関係悪化などが該当します。
飲酒の習慣は社会的にも容認されたものであり、利点もありますが、最近では未成年者の飲酒、キッチンドリンカー、アダルトチルドレン、高齢者のアルコール依存症など、新たなアルコールに起因する健康障害の問題が生じています。
さらに家庭の崩壊、非行、交通事故、犯罪など社会的問題も引き起こします。
アルコール依存症の原因
発症要因は明確にされていませんが、下記の要因が考えられています。
1)体質的要因
日本人の約半数は遺伝的に2型アルデヒド脱水素酵素の活性が弱いか欠けていて、アルコールの分解産物だるアセトアルデヒドを速やかに分解できず、少量のアルコールでもすぐに酔い、顔が赤くなる、逆に活性が高い場合は、アルコールに強く作用します。アルコール依存症の約90%は、アルコールに強い2型アルデヒド脱水素酵素をもつ人とされています。
2)環境的要因
飲酒に対して寛容な環境に育ったり、飲酒する機会の多い職場、職業などの環境にいることが、アルコール依存症の発症に影響を与えます。
家族の飲酒様式、その社会特有の飲酒形態、平均飲酒量、アルコールの価格と入手の容易さなど、個人的・社会的背景なども要因となります。
3)人格傾向や心理的要因
依存的・現実逃避的でストレスに対する耐性の低下がみられ、真面目、律儀であるなどの性格傾向の人がなりやすいと言われています。 ニコチン依存、ギャンブル依存、ワーカホリックなど、他の嗜癖を伴う事も多いです。
4)生物学的行動要因
アルコールは依存性薬物であり、脳内の報酬系とよばれるところに作用し、その薬物を再び摂取したいという欲求を生じさせます。
人間は生活環境や経済条件、社会的地位や知的能力など様々な条件に応じて、その要求に対する探索行動をとるとされています。
アルコール依存症の患者さんの意思や心がけでは制御できない生物学的な脳内機構があると考えられています。
アルコール依存症の病態と臨床症状
アルコール依存症の病態
飲酒行動をコントロールできず、アルコール耐性の低下、晩酌時間の延長、強迫的かつ持続的な飲酒となり、精神的・身体的・社会的に支障をきたすなどの症状が出現します。
1)アルコール依存症の身体的症状・合併症
アルコールの長期間にわたる多量摂取により、中枢神経系は慢性的に抑制され、全身に様々な障害を与えます。 またアルコールは胎児への影響、発達への影響に関与することや発がん性作用があると言われています。
主なアルコール依存症の臨床症状
①手指の振戦
②酒やけ:毛細血管の拡張
③神経障害:慢性的な栄養障害により生じます。多発性神経炎(ビタミンB1の欠乏)
④肝機能障害:アルコール性肝炎、肝硬変など、女性の方がアルコール性肝障害を起こしやすいとされています。これは自己免疫疾患にかかりやすい傾向に関連すると考えられています。
⑤消化器障害:胃炎、胃潰瘍などが認められる場合があります。出血傾向となり、マロリーワイス症候群、静脈瘤・食道静脈瘤からの大量出血もみられます。
⑥膵機能障害:慢性膵炎、糖尿病を伴う事が多いです。
⑦循環器障害:高血圧、不整脈、心筋炎による突然死も認められる事が多いです。
⑧性機能障害:性欲低下、性的不能、いわゆる勃起不全になることも
2)精神的症状
①アルコール幻覚症:大量の飲酒に引き続き、急性の幻覚、とくに幻聴が起こります。被害的・脅迫的な内容が多く、不安感、恐怖感が強く出ます。
②アルコール性嫉妬妄想:攻撃的で暴力行為に及ぶ場合があります。
③脳障害:アルコール依存症においては、意識は薄紙を貼ったような状態と言われています。意識、記憶、認知などの脳障害は長く続く、慢性的な栄養障害、トランスアミン活性の欠損により生じるとされる、ウェルニッケ症候群は、振戦・せん妄の時期に出現することが多いです。
まず、ウェルニッケ脳炎により小脳失調症(身体の動きや歩行が不安定、眼球の運動障害など)
が出現し、その後コルサコフ病といわれるつくり話、記銘力障害、見当識障害などの症状が出現します。
3)アルコール離脱症状
アルコール依存症患者さんは飲酒の中断により反動として、中枢神経の活動亢進をもたらし下記のような離脱症状が経過とともに出現します。
①早期離脱症状:飲酒停止後7〜8時間でアルコール血中濃度の低下による神経系の興奮で発症します。
・風邪様症状、不眠、焦燥感:精神的依存
初期症状
・発汗、手指振戦、頻脈、血圧上昇:身体的依存、自律神経症状
②後期離脱症状:飲酒停止後3〜4日に発症する。
・振戦・せん妄:不安・興奮状態、見当識障害、全身の粗大振戦、幻覚(多数の小動物が見える)、ときに幻聴を伴う場合もあります。
自律神経障害も著明になります。
最後に長い睡眠を経て覚醒し、意識が回復します。通常は3〜4日、長くても一週間で消失しますが、長期化することもあります。
③遅延性症状 波状的に出現します。
軽症で3ヶ月、中等度で6ヶ月、重症で12ヶ月程度
・神経過敏:ささいなことで感情的になる。落ち着かない、集中力低下など ・不安定な感情:不安、あせり、抑うつなど
・人格的変化:自己中心的、短絡的、衝動的、攻撃的、被害的、何かにつけ訴える、他罰的(自分には非がなく他人が悪いとする)、自暴自棄、悲観的など
アルコール依存症の治療
治療の目的は飲酒行動が変化し、アルコール依存しない生活行動となることを目指します。 そのためには、身体的障害の治療のみならず、精神的・社会的な領域に包括的・継続的な治療が必要となります。
1)薬物療法
①ベンゾジアゼピン系抗不安薬として、セルシンやホリゾンなどが用いられます。
アルコールと交差耐性をもつため、解毒を図り、離脱症状への治療として利用されます。
・栄養補給、補液、電解質補給:栄養状態の低下、発熱、発汗などの自律神経症状などにより、脱水の改善のために行われます。
また、振戦を重症化すると、低マグネシウム血症や不整脈を引き起こす低カリウム血症などの予防として、マグネシウム・カリウムが補給されます。
ビタミンB1欠乏によるウェルニッケ脳症やニコチン酸欠乏によるペラグラ脳炎予防のためにもビタミンの補給が必要になります。
②離脱期以降の治療
・抗酒薬(シアナマイドなど):アルコール分解産物である、アセトアルデヒドの代謝阻害薬である,断酒の補助役として使用されます。
少量の飲酒でも悪心・嘔吐、頻脈、呼吸困難などを引き起こすので、十分な説明と注意が必要になる薬物になります。
③合併症に対する治療 ・肝機能障害:安静と十分な栄養補給を行います。
脂肪肝には肥満度に応じエネルギー調節を行います。
浮腫や脱水がある場合は水分・塩分制限や利尿薬が使用されます。
肝性脳症が発症すれば、アミノ酸製剤の点滴など行い治療を行います。
④その他:合併症の症状により対症的な治療が行われます。
2)精神療法
依存的な性格や不安定な心理状態や家庭・社会的問題も抱えている事が多いため、個人的・集団的精神療法が行われます。
3)断酒会、その他自助グループ
病院のデイケア等でARP(Alcohol Rehabilitation Program)や断酒会や自助グループであるAAへの参加は疾患に対する正しい知識を得て、共感し合える同じ仲間と励まし合いながら治療を継続することができ有効であるとされています。
4)家族治療、ソーシャルワーク
家族は離婚や経済的危機状況であることが多い場合があります。飲酒の一因が家庭内の葛藤であることもあります。配偶者、家族へのカウンセリングによる周囲の環境調整も重要となります。
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アルコール依存症患者さんの看護の展開
看護のポイント!
アルコール依存症患者さんの看護では、単に飲酒をやめるよう指導するのではなく、急性期の身体的危険を回避しながら、その後の再飲酒予防や生活再建につなげていく視点が重要です。
特に急性期は、離脱症状の重症化を防ぐことが最優先となるため、不眠、焦燥感、振戦、発汗、頻脈、血圧上昇、幻覚、せん妄の有無を継続して観察し、安全を保ちながら全身状態の安定を図ります。
また、離脱期は些細な刺激で不安や興奮が強まりやすいため、安心して休息できる環境調整も必要です。
転倒や事故を防ぎつつ、訴えを受け止めながら苦痛を軽減できるように関わります。
脱水、電解質異常、栄養障害を伴うことも多いため、身体症状の観察と治療継続への援助を並行して行います。
症状が落ち着いてきた後は、再飲酒を防ぐための支援が中心になります。
この時期の看護では、飲酒につながりやすい場面やストレス、生活リズムの乱れ、家族関係の問題などを整理し、本人が自分の課題を理解できるよう支援します。
意志の弱さとして捉えるのではなく、依存症という病気の理解を深めながら、断酒継続のための行動変容につなげることが大切です。
さらに、アルコール依存症では家族支援も欠かせません。家族は本人の飲酒問題に巻き込まれ、疲弊や不安、怒りを抱えていることが少なくありません。
そのため、本人だけでなく家族の負担感や対応状況も把握し、必要に応じて関わり方を助言したり、家族会や地域資源につなげたりする視点が必要です。
アルコール依存症患者さんの看護をまとめると、
急性期は「離脱症状から守る看護」、
慢性期は「再飲酒を防ぎながら生活を立て直す看護」です。
身体面だけでなく、心理面、家族関係、生活背景を含めて支えることが、アルコール依存症看護では重要になります。
FAQ
アルコール依存症の急性期で最優先の看護は何ですか?
アルコール依存症の急性期で最優先となるのは、離脱症状の重症化予防と安全確保です。特に不眠、発汗、振戦、不安、焦燥、幻覚、けいれん、せん妄の有無を継続して観察し、全身状態の変化を早期に把握することが大切です。転倒、離棟、点滴自己抜去などのリスクにも注意が必要です。
アルコール依存症の看護問題にはどのようなものがありますか?
急性期では、離脱症状による身体的外傷のリスク、不眠や睡眠パターンの混乱、不安や恐怖感の増大、安全確保の困難などが看護問題として挙げられます。慢性期まで視野を広げると、再飲酒リスク、生活リズムの乱れ、家族関係の悪化、継続治療への意欲低下なども重要な看護問題になります。
アルコール依存症の看護計画でOP・TP・EPはどう考えればよいですか?
OPは離脱症状や全身状態の変化を早く捉えるための観察項目です。TPは安全確保、環境調整、薬剤投与、休息援助などの具体的な看護援助を指します。EPは、離脱症状の説明、治療継続の必要性、自己判断で治療を中断しないこと、家族も含めて支援につながる重要性などを説明する教育内容として考えると整理しやすいです。
この記事は、精神科看護の実務経験をもとに作成しています。
看護学生向けに、臨床で押さえたいポイントをできるだけ実践的に整理しました。
